紺青と紫紺
柳洞寺。
そこへ延々と続く石段を登ってくる人影を門番は見逃さなかった。
さらさらと風に揺れる金の髪を結い上げ、襟元と髪に青いリボンをあしらった少女。
かの騎士王の訪問に、彼は己の身を実体化させて出迎えることにする。
「セイバーではないか。このような辺鄙な寺へよくぞ参られた」
「お邪魔いたします、アサシン。マスターの忘れ物を届けに参りました」
「ああ、そう言えば小僧が数刻前に来ておったな」
入るぞー、と別に言わずともよいものを、わざわざ山門前で見えていない自分に向かって挨拶していった律儀な少年を思い出す。
「ええ、そういう訳です。一成殿は、母屋にいらっしゃるのでしょうか」
「ああ、母屋だろう。向かえば誰かしらかおるだろうから呼ぶと良い。何なら離れにいる宗一郎に尋ねてもよいであろう」
彼女の顔見知りの名も上げておく。
「はい、ありがとうございます。では……」
一礼してその場を立ち去ろうとしたセイバーを見て、ふと、彼は兼ねてから思っていたことを確認したくなり呼び止めることにした。
「ああ、そうだ、セイバー、少し待たれよ」
「はい、何か……って貴方何を」
す、と彼は背中に手をやる。その背に背負われているものは、云わずと知れた物干し竿と呼ばれる彼の得物。
まさか今から打ち合う気ではあるまいか。例えそうであってもいくらでも受けて立つだけだが。セイバーに一瞬緊張が走った。が。
こつん。
彼は物干し竿をセイバーと並べるかのごとく地面に垂直に立てる。ふむふむふむと交互に見比べ、
「ふむ……やはり、あまり変わらぬな。ああ、その踵の少し高い履き物がある分、そなたの方がいくらか上か」
一人で勝手に納得して頷いていた。つまり彼は、五尺少々の物干し竿で彼女の身の丈を図っていたのだった。身長154センチ(公式設定)+ブーツのヒール(彼の目測で2寸にやや足らず=およそ5センチほど)の分、ほんの僅かセイバーの方が高いらしい。アホ毛はとりあえず含まない。
「あ、アサシン! わざわざ得物で図らずとも貴方なら目測で身の丈くらい分かるでしょうに!」
お前さんはちっこいんだぞーと云われてるように思えてしまったセイバーががおーと効果音をつけるかのごとく彼に食って掛かった。
「ああ、すまぬすまぬ。お前さんがあまりに可愛らしいのでつい、な。許されよ」
くつくつと笑いながら詫びられてしまう。
「……あまりに真剣さが足りない詫び方のような気がするのですが」
ぷーと頬を膨らませ抗議する様を見ていると更に可愛らしさが増してそれを種にからかいたくもなるのだが、それはまあ次の機会に取っておくことにしよう。
「それはそうと。そなた、早く使いを終わらせてしまった方がよいかもしれんぞ」
強引に話を逸らしてしまう。
「……? それはどういう意味ですか」
「いやな、我が主が少し前に『今度セイバーが来た時のために新作のひらひらのふりふりなかわいらしい服を用意したわ! ええ? あの子のマスターが忘れ物を届けさせるように電話したんですって? じゃあもう今着せるしかないじゃない! 忘れ物の神様ありがとうございます!』とか言っていてな」
「え、それはまさか」
「うむ、先ほど大慌てで何やらが足りぬと言って走って買い出しに出かけおった。ここで長居しておると掴まってしまって『ひらひらのふりふり』の餌食になるぞ」
いつだったかの白いドレスの一件を忘れてはいないセイバーがきっ、と真剣な表情になる。
「有難うございます。それでは早急に使いを済ませ帰宅することにします。それでは、また!」
さっと彼に礼をして、ばたばたと先刻の彼の主に負けない慌しさで場を去っていった。
「『ひらひらのふりふり』とやらも一度見て見たいものだがな」
その後、セイバーはキャスターに会うことなく無事(?)柳洞寺を後にしたのかどうかは、そ知らぬ顔で霊体となった彼には与り知らぬ事であった。
以前サイトに置いていた騎士王と門番SSをサルベージしてみました。
佐々木(仮名w)は今でも聖剣戦争最愛のサーヴァントです。