第一回遠坂家リビング戦争

はてさて、一体何がどうしてこういうことになったのか。

遠坂凛がアーチャーのサーヴァントと契約を交わし、その後、彼の淹れた紅茶が美味しいということが判明して、今も彼女はリビングでそのお茶を堪能していた。
けれど、あまりにもそのお茶が完璧すぎて、その完璧さが何故だか彼女の癪に触った。単純に面白くない、それだけのことであったと思うのだが、天性の負けず嫌いである彼女にとってそれは看過できる事実ではなく、故に彼女は、ほんのちょっとだけ、と前置きをした上で、彼に意地悪をしてみたくなった。

「あ。お変わり頂戴アーチャー。今度は日本茶が飲みたいかも。あつーーくておいしーーーいのをお願いね」

そう、紅茶をパーフェクトに淹れた彼にはきっと日本茶は不得手であろう、そしてきっと彼女に参りましたって言うに違いない、凛はそう確信して、にっこりと最大の笑みを彼に向ける。そして、あのデカイ態度のアイツが『すまない、それはいささか不得手だ』とちょっと困り気味に謝ってこい!と言う思いを笑顔の裏に忍ばせて。

「……よく飲むな、君は。そんなに水分ばかり摂っていると水太りするぞ」
「うるさい。今、これからの作戦について考えてるの。考えを纏めるのにお茶は欠かせないの。黙ってお茶淹れてきなさいってば……マスターの命令でしょ?」
「分かった……太ってもそれは君の責任だからな。ところで、茶はそこの棚に入ってた茶筒でいいのか?」

彼は、日本茶もパーフェクトに淹れられる大変出来のいいサーヴァントだった。
凛は彼の用意した大き目の湯飲みでずずっと茶をすすった。その澄み切った香りは本来ならくつろいで落ち着くはずの彼女の闘志を再び掻き立てる。熱いそれを一気に飲み干してだん、とテーブルの上に湯飲みを置いた。

「お変わり頂戴、アーチャー。次は中国茶でお願いね」

今度こそは参ったと言わせる!と彼女は次の手を繰り出したのだが、彼には、それは全く通用しなかった。文句一つの言いようのない完璧な烏龍茶が彼女の前に現れた。
「ああ、プーアル茶の方がよかったか?あれは脂肪を燃やすらしいからな」
と、口の端に笑みを浮かべて添えられた一言が更に彼女に火をつけた。

「アーチャー。次、ココア」
(凛にとっての)決戦の火蓋が切って落とされた。

もちろんココアも完璧で、更に彼女は次から次へと新たな課題を出したものの、彼はそれに全て完璧な回答で答えて。延々とそれを繰り返した。

10杯目のカモミールティーを飲みきった頃、闘志充分だった彼女をこつんと眠気が襲ってきた。睡眠を手助けする効果のあるハーブを選んだには選んだが、こうまで速攻で効果の出るものではない筈だ。何がなんだか分析する間もなく、眠気はどんどん彼女全体に回りきり、そのままぱたりとまぶたを落とした。
すう、と安らかな寝息が聞こえてきて、安堵したようなため息をついたのは、彼女に仕えるサーヴァント。言うまでもなく、彼女が眠りに落ちたのは彼の仕掛けによるもの。

「全く…負けず嫌いなのはいいが、腹を壊しては聖杯戦争も何もあったものではないだろう……凛」
ソファーに身を預け眠る彼女の隣に跪き、彼が呟く。その呟きには、穏やかな、優しい響きだけを乗せて。
そのまま彼女をそっと抱き上げ、リビングから彼女の部屋まで運び入れた。ベッドに寝かしつけ、彼女が本格的に寝入ったことを確認し、部屋から出ようとドアノブに手を掛けた。

「…つぎは………えーと…あーもんどかふぇらて…」

夢の世界の中にいても尚、彼女は彼と戦っているらしい。

「全部、受けてたとう、マスター」
そう小さく笑って一言だけ残し、彼はそっとドアを閉めた。

次が、あるのかどうかも分からないが、それでも。彼女がそう望むのなら、自分もそれを受けよう、彼女とこういう時間を共にするのを彼もまた楽しんでいたから。

そして、累々と彼女の飲み干したいろいろなもの器が積み上げられているキッチンへ向かった。これ位の片付け、彼には訳もない。

門番文と同じく以前のもののサルベージです。第一回と謳ってますが続く予定はありません(笑)。アーチャーは一家に一人欲しいです。