損益分岐点

「いいから、トロピカル焼きそば、早く」

 佐伯に海に行かないかと誘われて、意気揚々と待ち合わせ場所に向かってみたら。
 そこは、『海辺の喫茶珊瑚礁・はばたきビーチ出張所』でした。まる。

 正直、唖然とした。
 デートじゃないのか、デートじゃなかったのか、こんちきしょー。位は思った。
 けども、珊瑚礁を守るために毎日働いてる佐伯が今日もまた休日であっても奮闘しているのを見ていたら、あまり無碍にも出来なくて。
 しょうがないなあ。
 彼女は観念して、ため息をつきつつ、店の奥にある倉庫兼ロッカールームに入り、持ってきた水着を取り出した。ジェスの新作、ここでお披露目しちゃおう……エプロンでほとんど意味なくなるけど。あーあ。

「ちょっと、待て」
 佐伯の指示どおり、水着にエプロンを引っ掛けて舞い戻ってみたところ、いきなりその佐伯からクレームが付いた。
「何、ちゃんと佐伯くんの言ったとおり水着着てきたでしょ?」
「違う」
「だから何が」
 次の瞬間、佐伯はすう、と息を吸って、びし! と人差し指を立てて言い切った。

「パレオ禁止!」
 瞬間、周りの男性客がおー、と小声で賛同した。女性客は露骨に『えー』という顔をしていた。声には出さなかったけど。

「何それ、納得いかない」
 もっともだ。
「はだ…もとい水着エプロンの女子高生の最大ポイントは生足に決まってる。生足の出ない水着エプロンなんて俺は認める訳にはいかない」

 ……開いた口が塞がらない。が、これだけは言ってやる。き、と少し睨み付けるように佐伯を見て言い放つ。
「…佐伯くんって、足フェチ?」
「どうとでも言え。いいからそのパレオ剥いで、5番テーブルに生中2つ」

 結論。佐伯瑛にはその位のにらみはこれっぽっちも効きませんでした。
 水着エプロンの高校生店員が、海辺の喫茶珊瑚礁・はばたきビーチ出張所に効果的な収入をもたらしたのかどうかはあまり定かではない。